弁護士法人 大阪パブリック法律事務所
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覚せい剤依存からの回復 その1 覚せい剤依存のおそろしさ

刑事弁護をしていて出会うことが多い犯罪として,覚せい剤の使用があります。

 

覚せい剤使用犯罪の特徴に,何度も再犯を繰り返す方が多いということが挙げられます。覚せい剤取締法違反(使用)の量刑は,初犯は執行猶予で2度目以降は実刑判決というのが相場ですが,矯正施設(刑務所)では,覚せい剤依存治療の成果を上げることができていないといえます。裁判所には,再犯だからといってオートメーション的に実刑とするのではなく,その人に合った更生の道筋を考えて欲しいと願います。

 

なぜ,覚せい剤は止められないのでしょうか。使用したことのない我々には理解しづらいところですが,薬物依存関連の書籍を見ると,単に本人の意思が弱いからではないとのことです。

再犯をするのは,本人に法を守る意識がない(規範意識が乏しい),本人の悪性格によるものだという裁判官の誤解を解かなければなりません。

真の原因は,脳のメカニズムにあるようです。すなわち,薬効のドーパミン過剰供給によって,脳内に覚せい剤を欲する回路が形成され,継続使用のうちに回路が強化されていき,次第に回路自体が脳を支配するようになる。そのため,理性ではその欲求をコントロールできなくなるとのことです。

民間薬物依存回復施設ダルク(DARC:Drug Addiction Rehabilitation Centerの略)には「回復への12のステップ」というものがあり,「ステップ1:私たちは薬物に対して無力であり,生きていくことがどうにもならなくなったことを認めた。」という言葉に,薬物依存の凄みがあります。

 

また,覚せい剤依存者には,強い猜疑心,自己正当化思考,妄想的言動等の特徴が見られます。元々は様々な個性のあった人達が,依存が進むにつれて似たような性向を示すようになることには驚きます。これらの性向により,家族をはじめとした周りの人達が振り回され,傷つき,離れて行ってしまう。周囲には薬物依存者だけが残るので,さらに使用頻度が上がって依存傾向が高まるという悪循環です。

上記の特徴も,覚せい剤回路により脳を支配されていることが原因です。回路は,依存者本人にも気づかれないように裏からその思考をコントロールし,覚せい剤を使用させようとします。そのために,周囲の人を敵と認識させ,使用行為を正当化させ,異常に飛躍的な思考をさせたりするのです。

依存者が,「自分は大丈夫です。もう止めますから。」と真剣な顔で言って,まったく止めない。これは,嘘をついているのではなくて,本人も回路によってそう騙されているからなんですね。

 

おそろしい覚せい剤依存ですが,回復された方も多数います。回復の方法は様々ありますが,理性を超越した欲求を制御するために,精神病院施設への入院や薬物依存回復施設への入所というものがあります。

刑事裁判では,覚せい剤再使用の誤解を解いた上で,それらの入院・入所が,更生への意欲の表れ,再犯可能性の低下といった刑を軽くする事情としてもっと斟酌されるべきでしょう。

 

精神病院や薬物依存回復施設は,どのような施設・メニューで依存症を回復させるのでしょうか。有名なところでは民間薬物依存回復施設ダルクがあります。覚せい剤依存からの回復に興味をもった私は,書籍やインターネットの情報だけではなく,実際に施設に行き,直接見聞することにしました。

今回は「覚せい剤依存のおそろしさ」として紹介しましたが,今後私が担当するコラムは,それらの施設を見学したことについて紹介していきます。

 

弁護士 諸橋仁智