弁護士法人 大阪パブリック法律事務所
お知らせ・事例報告
Single post

外国人事件における通訳の問題 ~言葉のニュアンスにこだわって被告人質問を実施した事例(強制わいせつ)~

1 日本語が話せない外国人が被告人の刑事事件では、手続の様々な場面で通訳が行われます。刑事事件で正確な通訳がされることはとても大切なことです。 今回は、通訳される言葉の細かなニュアンスを意識して、公判弁護活動を行った結果、依頼者の不利益を防いだ事例をご紹介します。

2 この事件の被告人の男性は、中南米出身者でした。日本に在住している期間は長かったのですが、日本語はある程度は話すことができました。

罪名は強制わいせつ事件。犯行そのものに争いはありませんでした。

被害者は当時12歳の少女です。犯行態様も軽いものではありません。被害弁償は叶いませんでした。

裁判では、被告人の真摯な反省を示すことがとても重要になりました。

3 男性と接見を重ね、謝罪文の原文と翻訳文を見比べていると、あることに気づきました。

被告人の母国語で謝罪の意を表す同じ単語が、「ごめんなさい(申し訳ない)」と訳される場合と、「許して下さい」あるいは「残念です」と訳される場合があることがわかったのです。

率直にわびる「ごめんなさい」という言葉と、被害者に許しを請う言葉はニュアンスが異なります。反省が十分かどうかとう意味では与える印象がかなり異なります。

裁判では、この単語を何度も口にすることになります。

被告人の真意に沿わない通訳がされてしまっては、反省の態度が正しく伝わらないおそれがありました。

4 裁判では、打合せをしたうえで、男性に次のような質問をしました。

弁護人:自分したことをどう思っていますか。

被告人:(日本語で)本当に申し訳ないです。

弁護人:「申し訳ない」という言葉は,あなたの母国語では何というのですか

被告人:「○○○」です。

弁護人:「○○○」という単語は日本語では,「申し訳ない」以外にどんな訳し方がありますか。

被告人:(日本語で)「許して下さい」や「残念です」。

弁護人:日本語の「申し訳ない」という言葉と、「許して下さい」あるいは「残念です」という言葉は意味が同じですか。

被告人:違います

弁護人:あなたは、「○○○」という単語をどういう意味で使っているのですか。

被告人:「申し訳ない」という意味です。

こうした前置きをした結果、被告人の言葉は、裁判の最後まで、正確に通訳されました。

5 この事件は執行猶予付きの判決となりました。

男性には小さな子供がおり、強制退去によって家族が離散するという事態を防ぐ為にも、執行猶予判決が望まれる事案でした。出来る限りの手段を尽くしました。

通訳の結果で誤解が生じないように配慮することは、被告人の責任とは言えない点で被告人が不当に不利益に扱われないために大切なことです。

私はそれは刑事弁護人の職責だと考えています。